M&Aの概念が変わる!

先日かつてサポートさせていただいた経営者から約6年ぶりに連絡がありました。聞けば「異業種の取引先から事業を引き継いでくれないかと相談を受けた。自分としては引き継ぎたいが同じぐらいの規模であるし、異業種のためどうしたいいからを相談したい」とのことでした。

新型コロナ禍においてM&Aを含め事業を誰かに引き継ぎたいと希望する経営者が増えてきました。弊社にも毎週のように事業を譲渡したい、受け継ぎたいという相談が寄せられています。しかし、お互いの会社にとってM&Aと言われる第3者による事業承継は初めてのケースがほとんどです。まだまだこのようなケースに相談に乗ってくれる専門家は地域では少数と言えます。したがって、今後ポストコロナに向けて事業を成長させたいと考えている経営者はそのような、相談をうけることを想定し自ら学んで知見を集めておくことが重要です。

リーマンショックの際に中小企業のM&Aによる事業承継の件数は数年間大きく落ち込みました。しかし、新型コロナ禍からポストコロナに移行する過程ではむしろ急増することが想定されます。その理由は2つあります。一つ目が地域の人口構造が減少並びに高齢化している点、これに伴い企業経営者の平均年齢がかつてないほどに高まっています。したがって今後数年間で一気に事業を辞めたい、引き継ぎたいというニーズはどの業界においても激増します。

次に中小企業の生産性向上の視点から事業成長にはデジタル化が不可欠という概念が新型コロナで一気に加速しました。これらは比較的年齢が若い経営者でなければ対応が難しく自然に社内の若い人財や知り合いの後継者がいる会社がどの業種においても有利になってきます。そして、政府も中小企業施策の中で中小企業の生産性向上に資する統合や再編において引き継ぐ側である成長意欲の高い企業を後押しする施策を展開しています。

表:栃木県における企業数及び各人口動向推移予測

(単位:千) 

(出店・財務省財務総合政策研究所、国立社会保障・人口問題研究所資料より著者作成)

※各年度の指標はともに2015年を100%として対比

この表は栃木県内における2015年の企業数を100%としてそれぞれの年にどのように企業数と就業人口、生産年齢人口が推移するの予測を表にしたものです。2020年に56,000あった事業所は2040年には40,000に減少することが予想されます。当然未来における予測データのため確定はしていませんが、人口統計をもとにした試算ですのでそう大きくは違わないでしょう。

地域において企業経営者はこのデータを念頭において経営を行っていく必要があるのです。そして、地域全体の課題として人口や企業数は減少したとしても生産性を向上させながら統合、集約化を図っておけるかが地方創生の大きなテーマになってきます。では今後、どのような観点でのM&Aや事業承継が増えていくのでしょうか。今後増加するM&Aや事業承継について4つのポイントについて述べてみます。

〇異業種や周辺事業の連携、統合

異業種や川上川下の事業や会社の連携や統合を行うことで付加価値を向上させることがまず一つ目の取り組みになるでしょう。日本国内においては首都圏を除いてはどの地域も同じようなデータが残ります。規模や効率化を図ることで生産性を向上させることです。最初にお話しした事例は川下の会社が異業種の川上の会社を引継ぎ事例になります。

〇シェア型、エコモデルの企業間連携体を構築し新たな価値創出

次に、同じ地域で同じような設備や製品を作ることは価格競争の一因になりつつあります。今後は生産性設備や取引先などを共有するシェア型のビジネスモデルや企業間連携体を構築していくことになるでしょう。今後人口減少により互いの販路や生産設備または、本部機能を共有し、シェアやエコモデルを構築して生産性を高めていく方法です。例えば同じ業界への製品を製造する企業であればそれぞれの工場を共有して稼働率を上げる、または販路を共有してお互いの商品を提供しあう等が考えられます。

〇デジタル化による生産性の向上

規模を縮小しながらも生産性を上げるにはデジタル化をそれぞれの企業で図って行くことが求められます。新型コロナはすべての企業にデジタル変革を迫っています。これまでの企業活動をデジタル化することでコストが下がるだけではなく、新しい事業を創造することが可能になります。規模や地域を超えた企業活動が可能になり小さくても世界に打って出る地域企業などが現れることでしょう。事業統合の際にもこれまでの生産性の低い状況で事業を引き継いでもむしろ生産性は下がってしまいます。M&Aや事業統合にはDX化が必須になるのです。

〇経営資源としての社員や取引先、ノウハウ、商品・製品などの引継ぎ

人口下減少する社会で企業成長を図るには外部の経営資源を取り込みながら成長を志向していくことが求められます。これまでのM&Aの概念である会社を売ったり、買ったりというよりも人を一括で採用する、取引先や商品を引き継ぐなどのケースがこれから増えていくでしょう。例えば長年地域や業界で親しまれてきたワンアイテムなどを若い後継者のいる企業が引き継いで自社の販路でも販売することでより売上高を上げることが可能になってきます。

2021年はポストコロナに向けた取り組みがどの企業でも加速します。その中でM&Aの概念も大きく変わっていくことでしょう。是非、どの企業経営者においても「事業を引き継いでくれませんか?」と相談された際にどうするのかを社内でも協議しておくことが何よりも重要です。